VOC処理技術の社会・経済・環境への影響評価

創造工学研究所では、2011年2月に『VOC処理技術の社会・経済・環境への影響評価』と題する報告書をまとめました。これは、塗装業をはじめとして産業資材として用いられるトルエン、キシレン、酢酸エチル等の揮発性有機化合物(VOC)について、その処理技術の幅広い影響を評価するテクノロジーアセスメントを実施したものです。


創造工学研究所は技術士の本田尚士さんにより創設され、約30年の歴史を有しています。本田さんは日本における初期のテクノロジーアセスメントに携わってこられました。I2TAプロジェクトでは、創造工学研究所のメンバーの方々との交流を通じ、この報告書の作成にかかる協力を行ってきました。

著者である鶴岡洋幸さんおよび平野輝美さんより、今回のTA活動にかかる所感を頂きましたので、以下に全文掲載させて頂きます。

2011年3月18日(金)

i2ta向けにテクノロジーアセスメント(TA)を書いて感じた事

 創造工学研究所  鶴岡洋幸

1)    3月7日の東大本郷の福武ラーニングシアターにて開催された、『テクノロジーアセスメント(TA)はどの様に政策や社会に貢献できるか?』にて発表された京都大の加藤和人准教授のお話が記憶に残った。お話はiPS細胞等の先端医療技術の社会と倫理と医学の相互体系の研究をされる中で、日本と欧米の課題の進め方の差のモデルのお話であった。記憶のままを記述すると、『医学研究者-研究所-病院-大学、住民-町-地方自治体、政府-中央省庁-国立研究所等の各種のグループ別で、ある課題のテーマを進める際には、日本では政府や中央リーダーが意見発信をして進めるが、欧米では各種のグループが双発的に意見交流をして下支え体制があって議論が進む傾向がある!』との感想を述べていた。詰まり日本はグループ内向性が強く、全体への波及を必要とする場合は、中央リーダーを必要として、欧米では双発刺激型で意見がやり取りの中で生れ易い体質があると理解した。日本では企業内でも、部門が違うと、言葉が通じないという文化も存在する。

2)    TAを記述する書籍によると、TAは米国にて当時の社会情勢から要請が起こり、米国議会で法制化された。それを日本の訪米団が1970年前後に聞き込んで、日本に紹介され、テクノロジーと言う事で経済界と経済産業省(当時の通産省)とを主体に検討が進んだようである。私の個人的な感覚では、総体的に日本には馴染まなかったとの評が多かったように記憶している。

3)    今回技術士事務所である創造工学研究所へ東京大学の公共政策大学院のi2taプログラム『技術の社会的影響評価』からTAプロジェクトへの参加要請が一昨年秋にあった。と言うより、創造工学研究所の創立者の本田尚士技術士へ依頼が来たという方が正しいのだが、その中の勉強会に参加している私が作成者の一人に指名されたので、同時並行的に関わった内容の『揮発性有機溶剤(VOC)の処理技術の社会・経済・環境への影響評価』というテーマで書く事にした。"関わった内容が深まれば良い!"程度でテーマの選択をしたので、書いた後その反動が来たように感ずる。以下TAを書いた経緯からの感想をまとめる。

a) TAを書くに当ってテーマ選びが重要である。自分の立ち位置からそれなりに意見が述べられるテーマを選ぶべきで、多方面の角度から意見を取り得るテーマが望ましい。

b) ある程度の知識の習得と、記述内容の展開が計れたら、先ずともかく記述して見ることが重要と思う。(私の場合は、時間経過に伴って、情報が新しく入って来る状況があり、これを気にして延び延びに成った経緯もある。)

c) テーマに付いては、余り偏らずに基本をしっかり書く方法と、全体の中から自分の主張を明確に打ち出す書き方と二通りある様に思う。私の場合の立ち位置は二つあり、一つはi2taから依頼された技術士事務所としての創造工学研究会の立場であり、もう一方では上記3)に同時並行的と記述したVOCリサイクルを生業とする工業会の立場であったので、双方のせめぎ合いが自分の中で起こってしまった。TAを書く場合の基本は、前者とi2ta指導者のご意見は、"偏らずに基本をしっかり書く"であったが、後者は"現状から主張を明確に書くこと"であったと理解されるので、"双方に関わるからそれをテーマにしてみた"と言う私のテーマ選定のあり方は、TAを書き辛くしてしまった原因となった。結局は、TAとは、自分の立ち位置を明確に論ずる手法であり、立ち位置が違う場合は、その違いが全体最適を考えた場合にどの程度の割合で、どの程度の強さを持っているかの議論と調整になると思う。繰り返すが、TAは、ある技術の未来のあり方を論ずるための、全体最適を図る手段と、私は理解した。
4)    日本の強さは、企業グループ、社内グループ、意思の通じる自治体グループ、目的を同じとするグループ等集団の中で協力して課題を解決に導く団結力だと思う。戦後の高度成長期は、この団結力が上手く機能して"モノづくり世界一"を達成できたのだと思う。

 しかし、このグループ内意識が強いことが、そのグループを含む大きな集団を考える必要がある場合、より大きな集団にとってどの様な戦略とか提案が必要かを考えて議論を進めることが、日本はどちらかと言うと苦手の様に感ずる。インターネットが発達して瞬時に情報が世界を飛び交い、"モノづくり"の顧客が世界に拡がった現在、世界の異文化を持つ人達との意見交流と議論により、未来を創造する技術を論じなければ、共創力も競争力をも培う事は出来ないと思う。これからは大きな集団を動かす理念創りとそれをオープンイノベーション型で進めて行く文化が重要と思う。

5)    今回のTAはその意味で、日本の置かれた立ち位置からは、ベストのタイミングでプロジェクトが提案され実行されたと思う。目的は以下の二つと思っている。

(1) 技術立国、環境立国、知財立国を掲げる日本の技術開発を考えるに当り、社会・経済・環境等へ先端技術がどのように関わって行くかを総合的に議論し、それに基づいた技術開発をする事が将来的に最重要である。

(2) そのためには、失われた20年を払拭して、日本の競争力を回復するには、グループ内志向から、双発的な全体最適に向かう議論に移行させ、日本の持ち得る強さを発揮できて、弱さを補完する上昇志向の議論ができる文化土壌を構築するべきと思う。

 今回のTAの活動が進む中で、国会議員の中でもグループ活動が始ったと聴く。日本の強さの復活にこのTA活動は必ずお役に立つと判断する。
 ―以上―



2011年3月25日(金)

テクノロジーアセスメント(TA)を実施して感じた事

創造工学研究所  平野輝美

 公衆は技術による快適な生活環境を知ってしまった.技術を活用すると,様々な「快適」を得ることができることを実感してしまったのである.そして,その技術は巨大化し,地球環境や社会などに与える影響が大きくなった.指摘されてきたことであるが,地球環境が無限と設定できないくらいに巨大化してしまった.このような技術の発展は,もはや止めることはできないであろう.よって,近い将来におけるテクノロジーアセスメント(TA)の必要性は異論の無いものであろう.すなわち,新たな技術について,そのTAを行うことは,必須として認識されるようになると思う.
 2011年3月11日,福島第一原子力発電所にて現在進行中の事故が発生した.東北関東震災をもたらした巨大地震に対して,福島原子力発電所の施設は耐えたようである.しかしながら,その巨大地震によってもたらされた巨大津波に対して無力であった.残念なことである.筆者は,技術にかかる業を生業とするのであるから,専門分野は異なるとはいえ忸怩たるものがある.
 巨大技術である原子力発電技術は,安全性に関して詳細にわたり検討がなされてきたであろう.原子力発電『技術』に関して,長年にわたって膨大なアセスメントが実施されたものと推察する.しかし,残念ながら,その現実は良好な成果を得ることはできなかった.
 今回実施したTAについて考えながら,TAに求められるものを考察してみようと思う.TAが好ましい成果を継続的に創造できるように希求し,本TA実施の感想としたい.

▶TAを実施する技術の設定
 TAは技術調査・評価である.その評価対象である技術について,与件に従って補外することが求められる,技術調査・評価であろう.そして,その技術調査・評価の軸は,社会的・経済的・行政的な影響など,および環境などに相当すると考えられる.もっとも,技術調査・評価軸は,与件に従って適切に設定されるべきである.
 今回のTAを行った結果として,『TAを実施する対象技術をどのように設定するのか?』,という基本的な問題がTA全体に大きく影響することを実感した.適切なTAを実施するためには,与件と技術調査・評価の軸を適切に考え,得るべき成果を考慮して,その対象技術を設定することが大切なのである.その対象技術の設定如何によって,得られる成果や,TA実施の易難が変化する.対象技術を適性に設定することが,全てにおいて,とても大きく影響するのである.TAの成否に大きく関わるのである.

▶TAの実施者の立場
 TAは設定した『技術』を『補外』して評価するのであるならば,その『補外』の様相により千差万別の結果となろう.このような『補外』は,理論的なシミュレーション,思考シミュレーションとして捉えることができるかもしれない.このようなシミュレーションを行うにあたり,TAのテーマとして設定した『技術』に関する基本的素養が求められるであろう.さらに,TAを実施するにおいて,客観的な『補外』が求められることにも留意すべきであろう.何らかの利害関係や,バイアスのようなものは好ましくないのである.
 TAを効果的に実施するには,上記の2点,(1)TAを実施する技術に関する,基本的な素養,(2)TAにおける思考シミュレーションを客観的に行う立場,である.このような素養と立場を満たしているリソースとして,私ども技術士事務所を活用することが効果的であるものと考える.

以上